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<スピンオフ> 第3章 九条琢磨 11

last update Last Updated: 2025-08-23 21:47:56

 琢磨と二階堂がオフィスで打ち合わせをしている間、舞は一生懸命窓ふきの清掃をしていた。時折、キュッキュッと窓を拭く音が聞こえてくる。

(真剣に仕事しているな……)

琢磨は時折、チラリと舞に視線を送っていると……。

「おい、聞いているのか九条」

突如二階堂が声をかけてきた。

「き、聞いていますよ!」

慌てて答えるも、二階堂は意地悪そうな笑みを浮かべた。

「嘘言え……俺が何も気づいていないとでも思ったのか? 見惚れていたんだろう?」

「な、な、何を見惚れて……!」

「花に」

「え? は……花?」

「ああ、そうだ。ほら、見ろ。昨日、業者に頼んで花を届けてもらったんだ」

見ると、窓際の近くに置かれた観葉植物の隣には長細い大きな花瓶に美しい色とりどりの花が見事に飾られていた。

(え……? いつの間にあんなものを…?)

「どうだ? 美しいだろう? あれに見惚れていたんだよな?」

二階堂がさらに尋ねてくる。

「え、ええ……もちろんですよ」

すると突然グイッと二階堂が顔を近づけてくると小声で言った。

「嘘言え」

「は?」

「九条、お前さっきからずっとあの女性清掃員ばかり見ていたぞ? 俺が気付いていないとでも思ったのか? さては一目惚れでもしたか? だが、かなり若そうに見えるぞ? お前よりだいぶ年下かもしれん」

「な・な・な・何を言ってるんですか!」

琢磨は真っ赤になって思わず大声を上げてしまった。その声に驚いて振り向く舞。

「あ、い、いえ。何でもありませんよ。どうか気にしないで下さい」

琢磨は慌てて舞に謝罪の言葉を述べる。

「はい」

舞は頭を下げると再び窓ふきを再開した。

(全く……とんでもない人だ……!)

琢磨は心の中で溜息をついた――

****

 それから約1時間後――

「あの、窓ふきの清掃終わりました」

清掃用具を片付けた舞が2人に声をかけてきた。

「ああ、どうもありがとうございました」

二階堂は笑みを浮かべると窓ガラスを見た。

「へ~ピカピカですね。曇り一つ無いですね。うん、やはり流石プロだ」

腕組みしながら感心したように言う二階堂を琢磨は半ば感心、半ば呆れながら見ていた。

(全く……口がうまいんだからな。だから女性にも勘違いされやすくて時折夫婦げんかに発展しているんだろう)

等とが琢磨が考えていると、二階堂がとんでもないことを言ってきた。

「あのもしよければ、コーヒーを
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     21時―― 琢磨は都内のタワーマンションにある自室で1人、高層ビルから見える夜景を眺めながらワインを飲んでいた。そして今日の出来事を思い起こしていた。レンという子供を育てている女性……。「あの男の子は彼女の子供じゃないってことだなんろう……。そして彼女から子供を奪おうとしていたのは恐らく父親。だけどあの分だと彼女は子供を奪われる可能性の方が高いな……」そこまで考えて琢磨は我に返った。「俺は一体何を考えているんだ? どっちにしろ、もう会うことも無いだろうし何の関係も無いじゃないか」琢磨は煽るようにワインを飲むと、85インチのテレビのリモコンを付けた――**** ――翌日。琢磨は1日中タワーマンションから出ずにフィットネスジムで汗を流し、夜は久しぶりに最上階にあるバーラウンジへと足を運んだ。 高層ビル街の夜景が美しく見えるカウンター席で1人ウィスキーを飲んでいると、不意に背後から声をかけられた。「九条さんではありませんか?」振り向くと琢磨の隣の部屋に住む不動産会社の社長を務めている男性だった。年齢は42歳で独身。普段から時間さえあればジムで身体を鍛えている人物で、筋肉質で外見もとても若々しかった。30代でも通用する風貌をしている。「ああ、青柳さんでしたか、こんばんは」「隣、座ってもよろしいですか?」「ええ、どうぞ」「では、失礼します」青柳は琢磨の隣に座ると、すぐにウェイターがやって来た。「何に致しますか?」「そうだな……ギムレットを頼みます」「かしこまりました」「今夜は女性連れじゃないんですね?」琢磨はからかうように言った。「また九条さんはそのようなことを言って……。まるで私が毎回毎回女性を伴っているようじゃありませんか」青柳は照れたように笑う。「ですが、前回このバーでお会いした時も若い女性と一緒だったじゃないですか?」琢磨はウィスキーを飲んだ。「失礼いたします」そこへウェイターが現れ、青柳の前にギムレットを置いた。「ごゆっくりどうぞ」そして頭を下げると去って行く。青柳はギムレットに手を伸ばし、一口飲んだ。「色々なショットバーで飲んでいますが、やはりこの店が一番おいしく感じますよ。多分、ここで暮らしているので安心感があるのかもしれませんね」「ええ、そうですね。このマンションはレストランもあるし独り身の

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